「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 私でなくても。別に誰でも。

「……そうなんですか」

「うん。フィオナはどうする? 俺は今日は日中出掛けるけど、君は何か予定があるの?」

 優しい夫シリルは、沈んだ様子の私を気遣うように語りかけた。

「あ……そうなんです。今夜は友人に会うために、夜会に行こうと思っていて……」

 突然、シリルと結婚することになってしまった私の元には、友人たちから何があったのかを問う手紙が届いていた。

 もちろん。親友のジャスティナからも。

 ただ、シリルの本来の目的とかお父様の思惑とか色々と理由あって新聞での公示をまだしていない。だから、彼らは結婚したという噂のある私が、誰と結婚したかを知らない様子だった。

 詳細な事情を全員に手紙で知らせるのも大変だし、ちょうど城で大きな夜会があるので、そこで会って説明しようと思っていたのだ。

「そうか。では、俺がエスコートしよう。フィオナはもう既婚者なのだから、エスコートは必要だろう」

「え……ええ。ですが」

 私はとても失礼ながら、いかにも自由人のようなシリルが貴族としての私の立場を心配してくれた言葉を掛けてくれたのに驚いた。

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