「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「初めまして。エリュトルン伯爵令嬢ですね。僕は魔王討伐を成功させた勇者として公爵位を与えられた、シリル・ロッソです。どうぞ、よろしくお願いします」

「こちらこそ! シリル様。私前から、勇者様のファンだったんです。お会い出来て本当に光栄です」

「それは、ありがとう。妻の仲の良い友人が、僕のような高貴な血も持たない新興貴族に好意的な方だと、とても助かります」

 シリルはジェスティナに、私の両親に接した時と同じようにこの場に応じた必要な挨拶を礼儀正しく淡々とこなした。

 その時に、私は思った。

 勇者シリルは、普通の男性ではない。美しいジャスティナを前にしても、全く心を動かさない。

 だって、ジャスティナを前にした年頃の男性が、彼女に対してどうにかして好意的に見てもらおうと必死になる様子を、それこそ数えきれないくらいに私は隣で見て来たからだ。

 その時、夜会の主催である国王が現れる先触れの音がして、ジャスティナは「また後でね」と名残惜しそうにしながらも去っていった。

「……あの、シリル」

「ん? 何? あ。せっかく持って来たから、飲み物飲んでね」

< 34 / 192 >

この作品をシェア

pagetop