「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 私は驚きに目を見開いたままだったけど、彼は目を閉じたままだった。何故かやけにはっきりと彼の長いまつ毛が見えて、柔らかなものが唇に触れた。

 何度か角度を変えて熱い唇が触れたと思うんだけど、耳に悲鳴のような高い声が入り、それを合図にシリルはパッと離れた。

「もうやめなさいって、言ってるの……聞こえないの!!」

「……ベアトリス。子どもじみた癇癪(かんしゃく)を起こすのも、もういい加減にしてくれ。俺はもう既婚者なんだから、君の我がままに付き合うのはこれでおしまいだよ。俺がこれから一番大事にする女性は、妻フィオナだ。君じゃない」

「もうっ! 信じられないっ……!」

 そして、聖女ベアトリス・ヴィオレは足音も高らかに、会場を後にしていった。

「……シリル?」

 私は顔は多分真っ赤になってるし、頭の中は混乱していた。

 だって、初めてのキスが、こんなたくさんの人に見られながらになると思いもしていなくて。周囲にいた人はどう思うかなんて、どうでも良かった。

 そもそも、シリルが私にキスしてくれるなんて、思っていなかった。

「ん? あ。フィオナ。勝手にキスして、ごめんごめん。俺たち夫婦だし、どうせいずれするし、良いよね?」

 シリルは耳元でそう小声で囁くと、にっこりと微笑んだ。
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