「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

10 逃げよう

 彼女の申し出通りにジャスティナはシリルと話したいと、私は仕事に行く前の彼にそれを伝えた。

 「別に良いよ」とサラッと返事を返された時に、私は何を彼に期待していたのか、心の中でガッカリしてしまった。

 シリルがジャスティナの話を聞こうと言ってくれたのも、私がそうして欲しいとお願いしたからだ。なのに、私はそれを不満に思った。

 自分の気持ちが、複雑すぎてよくわからない。

 私は結婚したがっていた勇者シリルと、偶然結婚出来た。

 けど、自分よりもすべてが優れている存在、ジャスティナに取られてしまうのかもしれないと、不安でたまらない。

 シリルに会うために訪ねて来たジャスティナは、私も同席するように言ったけど、何を言われるかもわからなくて……どうしても怖くて。

 直前で逃げ出して……私は、ここに居る。

「……えっ……あんた。何してんの。怖くない?」

 空を飛んで現れたルーンさんは、窓からよじ登って斜めの屋根の上に居た私を見て驚いているようだ。

 落ちることは別に怖くない。少なくとも今は。

 それよりも目の前に迫る彼の選択が方が怖くて、高所にある怖さがわからない。

 シリルが私と才知あふれるジャスティナを比較して、どちらを選ぶかの結果なんて、もうずっと知りたくない。

「ううっ……ルーンさんっ」

 この前に感情のたかぶった時を見せてしまったせいか、彼の前ではこれまでに被っていた仮面をうまく被れない。

 今まで私の前で誰かが私以外を褒めても、何も言わずに言えずに我慢してた。

 私のことを見て。私もここに居るよって、心の中では叫んでいた。言いたかった。でも、言えなかった。今までずっと。

< 68 / 192 >

この作品をシェア

pagetop