「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

12 素直




 うなだれたジャスティナはシリルが呼んだ執事が案内をして、出て行った。普通なら玄関まで二人で送って行くところだけど、今回は彼女も望まないだろう。

 私は彼女が去って行く姿を見て、いままでがんじがらめに縛られていた何かから解き放たれるような不思議な気持ちになっていた。

 今まで私が見ていたジャスティナは、きっと私にとって都合の良い親友だった。

 けれど、ジャスティナが私に対し悪意しか持っていないとするなら、私だってそれは、すぐにわかったはずだ。

 私たち二人は幼い頃からずっと一緒に居て、お互いに美点も欠点も知り尽くした関係だった。

 ジャスティナがエミリオ様のことを言えなかったと言っていたことは、彼女に心酔していた友人の私にも責任があるかも知れない。

 私はジャスティナの良い点があれば、それをことさらに褒めた。それが親友の役割だと、そう思っていた。

 だから、彼女の欠点が見えていても、見えていないふりをした。

 ジャスティナには少し見栄っ張りなところがあって、自分に不都合な点を誤魔化してしまうところがあった。

「……あ」

 私の隣に寄り添って座っていたシリルは、唐突に聞こえた声に驚いたようで体を揺らした。もしかしたら、彼も考え事をしていたのかもしれない。

「フィオナ。どうしたの?」

「あ。あの……シリル。ジャスティナの話を考えていて、不思議なことがあったの」

「うん。良かったら、教えてくれる?」

 顔を覗き込んだシリルは私が自分に心を開き始めたと思ったのか、どこか嬉しそうだった。

 今思えば、私は結婚してから、こんな風に素直に彼と話したことはなかったかもしれない。

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