「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

02 理由

「……げ。嘘だろ」

 彼が手持ち看板を持っていたバルコニーは小さな酒場の前だった。二人で店に入ると、可愛らしい童顔(どうがん)をした黒髪の男性が座っていて、私と手を繋いだ彼の顔を見て目を見張っていた。

「ルーン! 賭けは、俺の勝ちだ。どうだ。今夜中に、結婚相手が見つかったぞ!」



 自慢げにそう言った彼は、どうするべきかと迷っていた私の椅子を引いて、長いドレスの裾(すそ)を調節して座らせてくれてた。変人でもなんでもなく、気が利く人みたい。

 そして、大きな円形テーブルに所狭しと並べられた料理を前に頬杖(ほおづえ)をついたルーンと呼ばれた人の前に腰掛け、意気揚々として微笑んだ。

 ちなみに御者が濡れながら馬車で私の帰りを待っていると伝えれば、彼は私を後で送るからと彼を先に帰らせていた。

 我が家に仕える護衛騎士一人だけは共に残ったのだけど、彼は今壁際に周囲を警戒しつつ待機している。

「うっはー……まじか。こうして目の前にしても、信じられない。あの……あんた。良いとこのお嬢さんみたいだけど、そんなに後先考えていなくて、人生大丈夫?」

 結構な辛辣(しんらつ)さで私の軽率(けいそつ)具合について心配をしてくれたけど、そんなことはこちらだって重々理解していた。

「ははは。なんでもやってみるもんだなー……すごい苦労をして世界も救ったし、神様もたまには俺に微笑んでくれるんだなー」

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