冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「きゃっ……!」
「捕まっていろ。お前に怪我されては叶わぬのでな」
「あ、ありがとうございます」

 こういう扱いにも結構慣れてきたものかなと思ったが、やはり恥ずかしさは消えない。リュアンやラケルとは違った、鍛えられた太い首を直視できず、セシリーはなるべく見ないようにして腕を回す。

 そんなふたりをもの言いたげな目で見た後リルルは、嬉しそうに尻尾を振り、軽快に木の股を飛び越えていった。彼も故郷に帰ってこれて喜んでいるのだろう。

 聖域と表現してもよさそうな、ひっそりとした自然だけの世界をしばらく堪能していると、やがて一行は巨大な湖と、その縁に立つ一本の巨木に邂逅する。

(なんて綺麗なんだろう……)

 セシリーはジェラルドの腕に抱かれていることすら忘れてしばしそれに見入った。湖水は透明な氷のように底までが透け、巨木の頂は他の背の低い木々に遮られ見ることは叶わない。
< 420 / 799 >

この作品をシェア

pagetop