冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

胸に抱えたもの

 新たな月の聖女が見つかった――ラケルとリュアンが足を踏み入れた時、王都はすでに、そんな噂に湧いていた。

 ガレイタム王国の町並は隣国と言えるだけあって、ファーリスデルとそこまで大きく差はない。あえて言うとすれば、ガレイタム側では伝統的な、落ち着いた雰囲気の建物がやや多く、ファーリスデル側は華やかで色遣いの多彩な外観の建物が目立つとか……後は、魔導具の普及がファーリスデルよりも進んでいるところだろうか。

 この国の王国軍を統括するのは、騎士団ではなく宮廷魔術師たちで、魔法による恩恵の普及もファーリスデルより進んでいる。そのせいかあちらこちらで、高い位置に人やものを運べる昇降台や、試験的に運用されているのか……動物を動力に使わずに動く車の姿などもあった。

「すごいですね。師匠にはこちらの方がずっと発展してるって聞いてましたけど、ガレイタムはこんな感じなんですか……」
「王都は特に魔道具の普及に力を入れているからな……。ほら、あそこを見てみろ」 

 ラケルはリュアンが指差した、時計塔の隣に立つ巨大な建物を見上げた。

「あれが、王国立魔術校……出自に問わず、魔力を持つ優秀な人材を探し集め、教育を与えている。もしお前がこの国に生まれたなら、あそこに所属していたかも知れないな」
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