冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 キースは門番が伸ばしてきた手を絡めとると、背負い投げの要領で地面に叩きつけた。門番は一瞬で沈黙し、もうひとりは慌てて邸内に駆けこんでいく。

「荒事はあまり好きではありませんが……面倒な輩が集まる前に行きましょう。時間が惜しい」
「うわぁ……」
(キースは怒らせると一番怖いんだ。ボクが昔食糧庫からちょっと食べ物をもらったときにもひどい目にあったんだよ……)

 容赦のない行動にセシリーもティシエルも口を噤み、リルルは尻尾を垂らして恐怖したが、今は彼の言う通りルバートの救出を優先する時。

 リルルの案内に従って屋敷をぐるっと一回りすると、裏手にひとつこじんまりとした離れ――小部屋くらいの小さなものがある。

(あれだと思う……でも、魔法の匂いがするよ)

 セシリーたちは駆け寄ってその建物を調べたが、なぜかそこには入り口が見当たらない。
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