6月、高嶺の花を摘みに

部屋

おかしいことといえば、さっきからずっと後ろを付きまとってくるこやつ。

何をする気か、お店を出た瞬間に手を握られて、家とは逆方向に引っ張られていった。

「ちょっと本当に勘弁して。あんたなんなの?」

きっとこの人は年上だ。

そうとしか見えない。

だけど、もう敬語をつける気も失せてくる。そんな野郎だ。

「俺は神崎結人(かんざきゆいと)だ」

名前なんて知らない。

今お前の名前を覚えたところでこの先どうにもならないだろうが。

「お前は?」

「何」

「名前だよ」

「なんて呼べばいいかわからねぇだろ」と付け足しながら足をもっと早めていく。

もうこの際ひっぱるとは言えない。

これはもう引きずってるも同然。

「ひより」

「あ? 声小せぇんだよ」

なんでそんなにイラついてんの。

焦って、る……?

「ひよりっ」

僅かな抵抗も虚しく、ひたすら問われては答えるの繰り返しをしていた。
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