□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「おはよう、ずいぶん寝不足そうね」

翌日、編集部に出社すると葉月さんが私のマグカップにたっぷりのブラックコーヒーを淹れて手渡してくれた。

「ありがとうございます」

葉月さんがこうやってお茶を入れてくれるなんて珍しいな、と思いながらありがたく受け取る。

「葉月さん、昨日借りたニット、今日クリーニングに出したんで、戻ってきたら返しますね」

「あぁ、別にいつでもいいのに」

黒いセルフレームを左の人差し指で軽く押し上げながら、葉月さんは私の隣に座って自分用のカップでコーヒーをすする。

「平井、今日の恰好ちょっと暑そうね」

昨日葉月さんから借りた胸元の大きく開いたアンゴラのニットとは正反対の、首元のぎゅっとつまったハイネックのニットを見て、葉月さんが小さく首を傾げた。

「あ、変ですかね」

「別に変ではないけど」

慌てて手で自分の首の周りを押さえると、葉月さんはそれ以上何も言わずに私の洋服から視線を外す。
よかった、特に突っ込まれなくて。
と、ホッと胸をなでおろした。

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