□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「あの、噂のって……」

どういう意味ですか?
そう聞こうと思った途端、そのやり取りを見ていた編集長がにやにやしながら口を開いた。

「おい新人営業マン、気をつけろよ。こいつの可愛い顔に油断したら、輪転機止められるぞ」

「ちょっと編集長。人聞きの悪い事言わないでください!私輪転機なんて意地でも止めませんよ!」

輪転機というのは雑誌や新聞を印刷するために使われる機械だ。
ギリギリのスケジュールで雑誌を作るこの編集部でも、輪転機が止まるなんてめったにない非常事態だ。
私がこの会社で編集の仕事をはじめて早5年、輪転機を止めた事はもちろん一度もない。

「でも、すごく厳しいスケジュールをゴリ押しして来たりはしますよね」

すっかり顔なじみの中野さんも、編集長に同意するかのように笑顔で私を責める。

いや、確かに。
やむを得ない事情で、無理な印刷スケジュールをお願いしたことは、一度か二度は……。いや、三、四回かな……?

「うちの会社で噂になってたから、どんな強烈な女の人なのかと思ってたら、平井さんこんなに美人さんだったんですね」

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