□TRIFLE□編集者は恋をする□
 
「ちょっと10月号持って来い!」

受話器を耳に当てたまま、編集長が怒鳴る。
私が素早く立ち上がり10月号を手渡すと、編集長は礼も言わずに奪うように雑誌をとった。
ページをめくりながら、電話の向こうの椎名さんと真剣な話を続ける。
私は編集長の手元を見つめごくりと息を飲んだ。

事故ったって、いったいどこのページだろう。

読者に情報を伝えるタウン誌。
お店の電話番号、商品の値段、イベントスケジュールの日付。
たった一つの数字が間違っていただけで、たくさんの人にものすごい迷惑をかけることになる。

正しい情報を読者に届けるために、何重にもチェックを重ねて下版を終えたはずなのに。
編集長の口から出た『事故』という言葉とその険しい表情で、校了を終えたばかりの11月号に取り返しのつかない大きな間違いが発生したのが伝わった。

ガチャンと大きな音をたてて乱暴に受話器を置いた編集長が、ぼりぼりと頭をかきながら口を開く。

「11月号の占いページ、責了だしたの誰だ」

ぞっとするくらい低い声でゆっくりとそう言った。

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