そして消えゆく君の声
「……人が来たら、騒ぎになる」

「何言ってるの、今はそんなこと言ってる場合じゃ――」

「……頼む」


 開いたもう片方の目が、懸命にすがりつく。


 こんなに寒いのに額には汗が浮いていて、早く手当てをしないとどうなるかわからないのに。

 何より黒崎くん自身が、気が狂いそうな痛みに苛まれているはずなのに。


「黒崎くんお願い、離して」

「…………ごめん」

「謝るなら、早く手をっ」


 青ざめた首が、横に振られる。


「……ひどいこと、されそうになったのに……ごめん」


 呆然とする私に、黒崎くんは頭を下げようとした。

 首を動かすだけで精一杯なのか、喉奥から苦しげなうめきが上がる。


 どうして。


 どうして黒崎くんが、謝るんだろう。どうしてこんな風に、謝り続けないといけないんだろう。

 癒えきらない手で、新たな傷口を押さえて。


「……兄さんは、悪くない……」


 そうかもしれない。
 でも。



「…………だから、頼む……」



 でもこれ以上、何を失えば赦してもらえるんだろう。
 
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