私が本物の令嬢です!

「すみません……お見苦しいものを、お見せして……」
「いいえ、大丈夫です。どうぞ、これで涙を拭いて」

 セオドアはハンカチを差し出した。
 公爵家の家門が刺繍された立派なものだ。


「そのような、高価なものを汚してしまうわけにはいきません」
「いいんですよ。使ってください」

 セオドアは半ば強引にハンカチをフローラに渡した。
 フローラは呆気にとられてセオドアを見つめる。
 彼は優しく微笑んでいる。


「あまり、自分を責めないで。せっかくの綺麗な瞳が腫れてしまいます」

 そう言って、セオドアは立ち去ってしまった。


 フローラはその場に立ち尽くしたまま、再び静かに涙を流した。
 ハンカチを握りしめ、歯を食いしばりながら、必死に彼の名を口にしようとする。


「セ……っ!」

 セオドア……。
 あなたは約束を覚えてくれていた。
 それなのに、私はあなたに名乗り出ることができない。


 ああ、セオドア。
 こんなに名前を呼びたいのに。
 フローラと呼びかけてほしいのに。

 叶わない。
 あなたとの未来はもう、永遠に叶わないんだわ。


「ううぅ……」

 フローラは地面に座り込んで、ひとり声を殺して泣いた。


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