私が本物の令嬢です!
数年前、前伯爵夫人が死ぬ前から、この家には定期的に魔法師が呼び出されていた。
前伯爵夫人は不治の病で医者もお手上げだったらしい。
そこで、伯爵は最後の砦として魔法師を呼び寄せ、何とか夫人を救おうとしたらしい。
しかし、彼のその思いも虚しく、夫人は帰らぬ人となった。
数年後、当時ナスカ家に出入りしていた魔法師は、違法の力を使っていたことがわかり、王国を追放されている。
ナスカ家は特に調べられることはなかったが、関与していることは明白だ。
「お? お嬢さまのお帰りか?」
グレンの視線の先には立派な馬車が到着したところだった。
馬車の中から出てきたのは淡いピンクのドレスを着た金髪の女性だ。
「特に何も感じないな」
とグレンは呟いた。
フローラ・ナスカには術がかけられている形跡がない。
魅了の術は持続するものではないので、定期的に術をかけ続けなければならない。
しかし、フローラにはその気配は微塵も感じられなかった。
「今日のところは帰るか」
グレンがナスカ家を離れようとしたとき、背後から妙な気配を感じた。
彼が急いで振り向くと、そこには使用人と見られる女がいた。
「あ、あの……ナスカ家に何か、ご用でしょうか?」
女は震えながら訊ねた。