私が本物の令嬢です!

 グレンは絶句してしばらく女を見つめた。
 この女には術がかけられている。
 それも、不完全でありながら、強力な術だった。
 つまり、正式な魔法師によるものではなく、呪術師によるものだ。
 そして、彼女にかけられているのは魅了ではなく、何か別の、とんでもない術である。


「ご用でないなら、失礼します」

 女が屋敷に向かおうとした瞬間、グレンは彼女の手をつかんだ。


「あんた、魔法師に何かされたのか? 一体、何の術をかけられた?」
「な……なんの、ことで、ございますか?」

 女は酷く震えている。
 グレンには彼女にかけられた術が何か、判断できない。


「は、放してください!」

 必死に手を振りほどこうとする女に、グレンは詰め寄る。
 このまま帰すわけにはいかない。


「あんたの名前は? いつからこの家で働いている?」

 何でもいい。
 情報を手に入れたかった。
 だが、女は首を横に振るだけだ。
 グレンは舌打ちし、困惑の表情で彼女に話す。


「あんたを助けられるかもしれない。なぜ、そうなったのかだけでも教えてくれ」

 見ず知らずの女を無償で助けるなど、グレンの性格ではあり得ないことだ。
 しかし、あまりにも奇妙だ。
 グレンは単純にその術の正体を知りたかった。



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