月がてらす道
凛も、相手の好意がわかるのか、尚隆の遊ばせ方が意外と上手だからなのか、きゃっきゃっと喜ぶ声を上げ、楽しげに遊んでいた。そうしてさらに30分ほどが過ぎ、休憩のために凛をベビーカーに乗せ、子供用のおやつを渡す。はしゃいで疲れたのか、ソフトせんべいを右手に持ったまま、凛はうとうとし始めた。
その様を、可愛いなと思いながらみづほは見つめる。ふと尚隆を見ると、彼も同じように凛を見つめていた。たぶん、みづほと同じように口の端を上げ、優しいまなざしで。
彼が、愛情深い人であることを、どうして気づかずにいられたのか──否、知っていたはずなのに忘れていたのか。
ここ半年ほどの、自分や凛への接し方を考えれば、尚隆が子煩悩な父親であることは明らかだった。きっとこの先も、義務感からだけではなく、子供を可愛がってくれるだろう。
今月、9月で凛は、1歳になった。これからはどんどん言葉を覚えて、物心も付いてくる。
決断の時が近づいているのかもしれない。いや、おそらくもう、目の前まで来ているのだ。……だが、みづほから切り出すことは、今もはばかられる気分だった。そんな、格好をつけている段階ではもうないと、わかっているにもかかわらず。
本格的に眠り始めた凛を見つめながら、そばのベンチに並んで座って、しばらくどちらも無言でいた。数分後、沈黙を打ち破ったのはみづほの方だった。
「話って、何?」
「え、ああ──戻ってから話そうかと」
「気になるから、今言ってくれる?」
悩むような間を置いた後、わかった、と尚隆はうなずく。
「実は、来年早々に、転勤することになって」
「転勤? どこに」
「本社。向こうの営業部から、直々に呼ばれたらしくて」
「え、すごいじゃない」
本社営業部と言えば、各支社の営業部員からすれば憧れの部署だと聞く。売上額トップである分ノルマも厳しいらしいが、そこから声がかかったということは普段の実績が認められてのことに違いないし、名誉と言っていいのではなかろうか。
難があるとすれば、この町からはさらに、遠い場所になること。時間的に、今のように日帰りで行き来するのは難しくなるだろう。
「それで、……引っ越しが年末とかになるから慌ただしいけど。付いてきてもらえないか」
「────え?」
「凛も1歳になったし、これからはいろいろわかるようになるだろ。いい機会だと思うんだけど」