契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
想うだけなら
とっぷりと日が暮れた東京湾に、ひと際巨大な船が停泊している。

大きいというだけでなくどこか気品を思わせるこの豪華客船は、三葉商船が社運を賭けて就航にこぎつけたクイーンクローバー号である。
 
もうまもなくしたら世界中から集まった招待客たちが乗船し、就航記念式典が開かれることになっている。

楓はホストとしてゲストを迎えるためにひと足先に乗船し、六階にあるロイヤルスイートのリビングルームで身支度を整えている。

以前ホテルで楓のカットを担当した美容師にこの日のためにわざわざ来てもらったのだ。
 
普段はホテルで行われる結婚式の新婦を担当するという彼女の腕前は一流だ。

今日の式典に合わせて、華やかにメイクを施して、髪を器用に結い上げた。

最近は楓も髪もメイクも一生懸命、綺麗に仕上げるようにしているが、今日の仕上がりは段違いだった。

「できました、奥さま。本当にお美しいです」
 
美容師の言葉に、ドレスを見に着けた鏡の中の自分を見つめて、楓は頬を染めた。

「ありがとうございます……」

「ふふふ、このドレスよくお似合いです。式典っていうと張り切って強いお色とデザインを選ばれる方も多いですが、なんていうかこのドレスは……奥さまの清楚な雰囲気をがそのまま引き立つっていうか……。旦那さまが選ばれたんじゃないですか?」
 
美容師からの問いかけに楓は頷いた。

「はい……」

「やっぱり! ふふふ、旦那さま本当に奥さまの魅力をよくわかっておいでですよね」
 
髪を切った際に、ほとんど和樹がオーダーしたところを見ていた美容師がそんなことを言う。

もちろんそれはただの勘違いで、ただ彼が有能なだけだ。

楓の魅力が……などということはないが、楓は曖昧に微笑んでやり過ごした。
 
とはいえ、和樹が用意してくれた若草色のイブニングドレスは、髪に飾られた生花の飾りと相まって瑞々しい印象で、楓もすごく気に入っている。

出過ぎない印象だから、今夜のホストである三葉和樹の妻の装いとしてはまずまずと言えるだろう。
「それでは私はこれで」
 
そう言って部屋を出ていく彼女と入れ替わるようにして、別室で準備していた和樹が入ってくる。

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