契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
——違う! これは、本当の愛情じゃない。
 
楓の中の冷静な部分が、高鳴る鼓動に警告をする。
 
このような彼の優しさはすべて契約のためのもの。

彼が楓を愛することなど、絶対にあり得ないのだから。

「……どうしても契約を継続させたかったから、頑張っちゃいました。でもまずまずの出来だったならよかったです」
 
わざとなんでもないように言って頬の温もりから逃れるようにうつむくと、行き場を失った和樹の手が拳を作って離れていった。

「……とにかく今日はよく頑張ってくれた。お腹がすいてるだろう。パーティではほとんど食べられなかっただろうから。ミニバーの冷蔵庫に料理を用意してもらってある。ケーキも全種類キープしてあるからな。楓が好きなガトーショコラは……」

「結構です。お腹は空いていません」
 
強く彼の言葉を遮って、楓は首を横に振った。

「楓……?」
 
尋ねる彼から目を逸らす。そしてようやく楓は"どうすれば傷つかずに済むか"ということの答えに辿り着いていた。
 
また以前のふたりに戻ればいい。互いにいないものとして、なるべく関わらずにいれば傷つくこともないはずだ。
 
楓をからかうどこか無邪気な微笑みも、不器用な優しさも、青い海に夢を語る眼差しも、知らなかったことにして。

「契約を継続するためにしていることですから。こんな風に気を遣っていただくことは必要ありません。ケーキも、今後は不要です。食べたければ自分で買いますから」
 
事務的に言って顔を上げると、彼は困惑したように眉を寄せている。
 
せっかく優しくしてやったのにと不快に思ったのかもしれない。
 
だけど、自分の心を守るためには仕方がないことなのだ。楓はそう自分に言い聞かせた。

「もう寝ますね。……おやすみなさい」
 
早口で言ってくるりと彼に背中を向ける。寝室へ向かって歩き出そうとした楓の腕を和樹が掴み引き寄せた。

「つっ……!」
 
そのまま強く抱きしめられる。

「か、和樹さ……」

「……嫌だ……」
 
聞き違いかと楓は思う。わけがわからずに顔を上げると、彼は傷ついたように楓を見つめている。

その視線に、楓はさらに困惑する。
 
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