契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
愛されていなくても、身体だけが繋がって。ひとときだけ夢を見たのだと、綺麗な思い出にできるだろうか。

 けして、愛されてはいないのに……。
 けして、愛してはいけないのに……!

「楓……」
 
彼の唇が、もう一度楓の唇に近づいて……あと少しのところで動きが止まる。

「楓……? 大丈夫か?」
 
温かい手に頬の涙を拭われて、楓は自分が泣いていたことに気がついた。

「嫌だったか? ……ごめん!」
 
こんなに慌てている彼ははじめてだ。なにが言わなくてはと思うのに、漏れるのは嗚咽だけだった。
 
和樹が身を起こして、声を絞り出す。

「ごめん……」
 
そして乱れた楓の胸元を優しい手つきで戻していく。
 
楓は両手で顔を覆い、声を殺して泣き続けた。

「本当に、ごめん。君に妻の役割を要求しないという約束だったのに……」
 
そう言って彼は楓から手を離して立ち上がり、頭をぐしゃぐしゃとした。

「もう絶対に君には触れないと誓う。今夜は、この部屋には戻ってこないから。安心して眠ってくれ。……おやすみ」
 
そう言って彼は、部屋を出て行った。
 
胸が切り裂かれるように痛かった。自分の中に、彼への愛の居場所をどこにも見つけられないのがつらかった。

好きになってはいけないなら、優しくしないでほしかったとすら思う。

「これくらい大人の嗜みだと割り切ることもできないのか」
 
そう言って嘲笑われた方がマシだった。
 
ひどい言葉で傷つけられて、……いっそのこと彼を嫌いになってしまいたい。
 
あの熱いキスを知ってそれでも愛してはいけないなんて、なんて残酷な契約なんだろう。
 
煌びやかな東京の夜景に背を向けて、楓は静かに泣き続けた。

< 141 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop