契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
BARで話をした紳士が実は自社の役員だと楓が知ったのは、二日後の一月六日のことだった。

三葉商船では毎年仕事始めに全社員に向けて社長が中継で挨拶をする。そこで新しい副社長が就任することが発表されたのだ。
 
新副社長は、海外事業部部長から昇格した三葉和樹。現社長、三葉和良(みつばかずよし)のひとり息子だ。
 
三葉和樹はここ数年は全世界に散らばる三葉商船の海外支社を転々としていた人物で、本社ではあまり馴染みはないが、これからは日本を拠点に指揮を執るという。

事実上の後継者指名だ。

モニター画面の中で、全社員に向かって挨拶をする三葉和樹の姿に、平静を装いながら楓は密かに度肝を抜かれていた。
 
二日前に、BARで話をしたあの男性だったからだ。

社長の息子である三葉和樹の存在自体は知っていた。

でもビジュアルを見たことはなかったし、あの時も互いに名乗らなかったから、まったく気がつかなかったのだ。
 
平静を装いながら楓は心はビクビクしていた。

一般社員の楓からしてみれば彼は雲の上の存在だ。

そんな相手に自分の抱えている事情を洗いざらいぶちまけたのだから。

しかも社名と所属部署まで口走ってしまったような……。

唯一の救いは会社の愚痴は言わなかったことだろう。
 
そうこうしているうちに放送が終わりモニターが消える。

その場がざわざわとし始めた。皆さっきの発表について、なにか言わなくては気が済まないといった様子だ。
 
年齢の高い層の社員はやや複雑そうだ。三十五歳の和樹が本社の指揮を執ることに不安を覚えているのだろう。

ここ数年、海外にいた彼の実力について知る者は少ない。
 
< 16 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop