契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
若くて美しい女性が多い分、いつもお互いにお互いをライバル視していて人間関係がギスギスしているという噂だ。

確かにそんな中に、あの副社長が入れば一波乱ありそうだ。

「ふふふ、面白いことになりそうだ」
 
パソコンの画面を見ながら亜美は忍び笑いをしている。
 
気まずい思いで楓もパソコンを立ち上げた。

まずはメールのチェックから、でもいつものようにすぐに意識が仕事に切り替わらなかった。

二日前の出来事がどうにも気にかかる。
 
……失礼な振る舞いはなかったように思うけれど。
 
彼の方は、途中で楓が自社の社員と気がついたはずだ。

就職活動のくだりで楓は会社名を口にした。

その場で自己紹介しなかったのは楓に気まずい思いをさせないためだろう。ならこの件についてはなかったことにするつもりなのだろう。

楓は、そう納得して、一応は安心する。どのみち、顔を合わせることもないだろうし……。
 
その時。

「須之内(すのうち)くん」

苗字を呼ばれて、楓は顔を上げた。

「ちょっといいかな」

「はい」
 
経理課課長の飯田(いいだ)だった。困ったようにゲジゲジの眉を下げている。

それだけでなにかトラブルがあったのだと楓は悟る。あるいは難しい案件が舞い込んだか。
 
隣でやり取りを聞いていた亜美も反応した。あうんの呼吸で、楓の机の上のまだ手をつけていない仕事に視線を送る。

「楓さん、それ私がやっておきます。楓さんは課長の方を」
 
経理課のチームワークは抜群で互いに協力し合って動いている。

飯田の持ってきた案件が難しいものならば、それは楓が処理をして、ほかの人がヘルプに回るのが効率的だ。

「ありがとう」
 
礼を言って立ち上がると、ようやく完全に頭が仕事モードに切り替わった。

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