契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「助かりました、楓さん。あの人しつこくて」
 
亜美がホッと息を吐いた。そしてすぐに申し訳なさそうにする。

「でもそのせいで、楓さんには嫌な思いをさせてしまいましたよね。すみません……」
 
楓が『鉄の女』と言われたことだ。経理課の仕事は大きく分けて二種類ある。

対外的な資金関係の業務と、給与や経費精算など自社の社員に向けての業務だ。
 
自社社員向けの業務に関してはシステム化を進めていて極力個々の業務を圧迫しないようにしている。

でも、どうしても社員たち自身に提出してもらわなくてはならないデータがあって、そういったものは、締切を守らない者いい加減なものを出す社員がいるのも事実だった。
 
三葉商船は巨大な企業だから、その不備に対応するのは大変で、これが長年、経理課の社員の負担になっていた。

今のような頼み事も頻繁だが、できないことはできない。ダメなものはダメだと突っぱねることも必要だ、というのが経理課社員全員の認識だ。
 
でもそれ自体が負担だと思う社員も多いのだ。

あまりきつい態度でいると社内での人間関係に影響する。その点、楓はなんの心配もない。

彼氏がいないどころか結婚も望んでいないのだ。

他部署の社員の評判などを気にする必要はあまりない。
 
いつも毅然とした態度で他部署の社員の無理難題を断ることができるのだ。そうしてついたあだ名は『経理部の鉄の女』。

ほぼ悪口だが、少しも気にならなかった。

間違ったことをしているわけではないし、業務がスムーズにいくならば、それでまったく問題ない。
「大丈夫」
 
亜美を安心させるように楓はにっこりと笑った。

「褒め言葉だと思ってる」
 
べつに強がりでもなくそう言うと、亜美は安心したように笑った。

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