契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
心配だったからといって、楓の話を聞き、会計までしてくれるなんて、なんて親切な人のだろう。

楓はようやく呼び出された理由に思いあたる。

その後楓が無事に帰れかを確認したかったのだ。

「はい、まだ人通りのあるうちに帰りましたので、大丈夫でした。ご心配をおかけしました」
 
恐縮して頭を下げると、和樹が首を横に振った。

「いや、大丈夫。私にとっても有意義な時間だったよ」

「そうですか。私も話を聞いていただけて、ありがたかったです。愚痴を言うのはあまり好きではありませんが、あの日はそうせずにはいられない気分でしたから。まさか、お相手が副社長だとは思いませんでしたが」
 
和樹がやや申し訳なさそうにした。

「驚かせて申し訳なかった。私の方は君の思い出話を聞いたときに、自社の社員だと気がついた。すぐに名乗るべきだったんだが、なにしろ時間がなかったから」

「いえ、それはべつに……」
 
答えながら、楓は彼の言葉を少し意外に思っていた。

あの時間は一期一会だったはず。楓の方は成り行き上、会社名を明かしたが、互いに名乗る必要はなかったはずだ。

「君の名前も聞けていなかったが、まぁ経理課だということまでわかっていれば、後からいくらでも連絡はつく。社員名簿には写真も入っているからね」
 
確かに、三葉商船のデータ化された社員名簿で検索すれば、探しあてることなど簡単だ。でもそれも、楓にとってさらに意外な言葉だった。
 
なぜあとから連絡を取る必要があるのだろう?
 
思わず「連絡を?」と呟いてしまう。
 
和樹が頷いた。

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