契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「だが、あそこは確か入社五年目までの社員しか入れない規定じゃなかったかな?」
 
その通りだった。楓は入社五年目だから、あと三カ月で出ていかなくてはならない。

「同じような条件の部屋は見つかりそう?」

「いえ……。それが、まだ」
 
そんなの見つかるわけがなかった。家賃補助を足して探しても、住環境は数段落ちることが確実だ。

それは仕方がないとしても金銭的な負担が増えるのはつらかった。

寮費が安く済むお陰で、奨学金の返済は、ここ数年ずっと繰上げ返済できていたのだから。けれどおそらく今後は難しい。

結婚せずにひとりで生きていくと決めている楓は、貯金もしなくてはならないのに。
 
そんな楓の事情などはお見通しであろう和樹が、たたみかけた。

「私と結婚すればその問題も解決できる。私の家はここから車で十五分の距離にある一軒家だ。これといって豪華な造りではないが、海外からのゲストを泊めることができるようバストイレ付きのゲストルームが別棟にあってね、そこに住んでもらってかまわない。キッチンだけはひとつだが、私は家では食事をしないし、そもそもほとんど家にいないから、それほど気を使わなくていい。もちろん家賃はただ」

「家賃がただ……」

 楓は呟いた。もう今すぐに頷いてしまいそうなくらい魅力的な話だった。

夫代行サービスの料金がかからないというだけでなく、新しく住む場所が見つかって、家賃までただになるのだから。

しかも立地が抜群だ。

これといって豪華な造りではないと彼は言うが、バストイレ付きのゲストルームが別棟にあるというだけで普通の社員が住める家ではないことは確実だ。

今よりも環境がぐんと上がる。

「金銭的な負担のないルームシェアだと思ってくれていい。もちろん君の方も対外的には私の妻を演じてもらう必要はあるが、それほど難しいことではない。年に数回数時間だけ両親と食事をしてもらうことと、どうしても断れない妻同伴のパーティに出席してもらうくらいかな」
 
< 31 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop