契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
いつまでも出てこない楓に業を煮やしたのだ。

「ななななな……! か、勝手に……!」
 
文句を言おうとするけれど、驚きすぎて言葉が出てこない。
 
女性の試着室のカーテンを勝手に開けるなんてありえない!
 
さっき楓は"着替えた"と答えたし、夫婦の設定なのだから問題ないのかもしれないけれど……。
 
一方で、和樹は開けたカーテンを掴んだまま無言だった。

楓を驚かせておきながらなぜか自分が驚いているようである。

「いかがですかー?」
 
背の高い彼に遮られて楓の姿をよく見えないスタッフが彼の向こうから呼びかけている。

彼はハッとしたように振り返り、傍に避けた。

「わぁ、すごく素敵です~!」
 
スタッフがハイテンションでお世辞を言う。別のスタッフが楓に見えるように鏡を向けた。
 
さっき美容室で整えてもらったヘアカットとメイクのおかげだろうか。そこに映る自分は普段よりはよく見えた。
今朝、家を出た時から比べたら別人だと思うくらいだ。

「やっぱり奥さま、旦那さまのおっしゃる通り、冒険されるべきですよ。とーってもお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます……」
 
スタッフの言葉も素直に受け止められた。
とはいえ肝心なのは和樹の反応だ。彼がジャッジするのだから。

恐る恐る彼を見ると、彼は楓から顔を逸らしスタッフと後ろのラックの方を向いた。

「その上下は着て帰ることにする。それから今日はできるだけたくさん揃えたい。あちらのラックから、こういうテイストのものを片っ端からピックアップしてくれ」
 
表情はわからないが、買うことにしたということは"合格"ということなのだろう。楓はホッと息を吐いた。
 
彼から出た三つ目の"合格"に試着室の中でしおしおに萎んでいたやる気にまた空気が入っていく。
 
なんとかなる、やってみよう。
 
でも彼の一挙手一投足でこんなにも気持ちが上下する自分に戸惑ってもいた。たとえ相手が上司だとしても、ここまで誰かの言動が気になることはなかったのに。
 
今日の自分はいったいどうしてしまったのだろう?
 
ホテルのスイートルームに百貨店の外商を呼び買い物をするという、非日常の世界がそうさせるのか。あるいは……。
 
台に次々に並べられる色とりどりの服を見つめながら、楓はぐるぐると考えていた。

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