契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
でも今さら、自分は和樹ではなく会社についていったのだと言い訳をするわけにもいかない。
 
和樹がからかうように耳打ちをした。

「夫婦のフリがうまくなってきたじゃないか」

「そ、そんなつもりじゃ……」
 
頬が熱くなるのを感じながら楓は言うが、彼は笑うだけだった。
 
そのうちにスタッフが戻ってくる。同じデザインの色の違うネックレスを楓の前に並べて微笑んだ。

「どれから試されますか?」
 
そう言われても選べるはずがない。ここで試着してしまえば、お買い上げまっしぐらだ。

さっきのダイヤモンドよりはマシだけど、このクローバーデザインもあり得ない値段だ。

「あの……」

「楓には、ピンクゴールドが似合うんじゃないか?」
 
和樹が言って、ネックレスに手を伸ばした。

「着けてあげよう。ほら楓、髪を上げて?」
 
そう言う彼は、さっきよりもご機嫌だ。
 
彼の方こそ夫婦のフリが上手だ。
 
ここまできて、着けないわけにもいかず楓はしぶしぶ自分の髪を両手でまとめ上げる。

そこへ、和樹が慣れた手つきでネックレスをかけた。
 
ふわりと感じるスパイシーな彼の香りに、楓の鼓動がどくんと跳ねる。咄嗟に楓は目を伏せた。

ただネックレスを着けてもらっているだけなのに、こんなにも反応してしまう自分自身が恥ずかしい。

頬だけでなく首と耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。
 
女性とのこういうやり取りに慣れているはずの和樹は、きっとこんな自分をおかしく思っているだろう。
 
うなじに感じる彼の手がネックレスの金具をつけ終えるのを、楓は息を殺して待っている。

胸が痛いくらいに高鳴ってもう一瞬も耐えられそうにはない。
 
……それなのに彼はなかなかつけ終わらない。

「金具、うまくいきませんか?」
 
スタッフからの問いかけに、少し掠れた声で「いや、大丈夫」答えてから、ようやく金具を着け終えた。

「わぁ、素敵です」という、スタッフの声に楓は顔を上げる。

首元にちょこんと輝くクローバーのネックレスは、思った以上に可愛かった。

「可愛い……」
 
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