契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
——それだけではなかったということか?
 
そのことに思いあたり、和樹は改めて買い物の時の自分の気持ちを思い出していた。

この一週間意識して考えないようにしていた部分だ。

そこで起こった自分の変化に、しっかりと向き合ってしまったら、自分が今まで避けてきたやっかいな、なにかの扉を開けてしまいそうで。
 
和樹を下の名で呼ぶというただそれだけのことで、茹で上がるようになっていた楓。和樹が少し触れるだけでいちいちびくびくとしていた。

まったく男慣れしていないその反応は人妻とはほど遠い。

契約妻としてはマイナスでしかないはずなのに、その反応を楽しんでいる自分がいた……。
 
和樹がからかうと頬を膨らませてにらんいたあの潤んだ目を思いだして、和樹はふーっと息を吐いた。
 
——いったい、なにをやってるんだ俺は。
 
女性に対してあんな風に振る舞ったことなど今までなかったのに。
 
なにやら胸がざわざわとして落ち着かない。このままでは業務に支障が出そうだと思い和樹は立ち上がった。少し休憩をしてこよう。
 
一階のカフェへコーヒーでも買いにいこうと机を回り込んだ時、ドアがノックされる。

答えると第二秘書の黒柳が入ってきた。

「失礼します、副社長。……どうかされましたか?」
 
和樹が机に立っていることを、不思議に思ったようだ。

「下のカフェに行ってくる」

答えると、彼女は首を傾げた。

「コーヒーならお淹れしますが」

「いや、いい。気分転換を兼ねて自分で買いにいく。君こそどうしたんだ?」
 
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