契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
無理もない話だった。
彼女は楓に雑談代わりにこうやって彼氏の話をすることがよくあった。
『楓さんって私が彼とのこと愚痴っても、あれこれうるさく言わないし、なにより口が固いからつい話しすぎちゃいます』
あれこれ意見を言わないのは、言うだけの経験がないからだが、とにかくいつもはふんふんと彼女の話を聞くだけだ。
自分はしないと決めている恋愛の話だが、ほかの人の話を聞くこと自体は嫌いではない。
でもこんな風に楓から、彼女に質問したりはしなかった。
興味がないというわけではなかったが、自分はしないと決めている以上、踏み込んだ質問をする必要がなかったのだ。
でも今は……どうしてかはわからないが、聞いてみたいと思ったのだ。
恋愛のはじまりが、どのようなものなのか、を……。
「あ、ごめん。言いたくなければ大丈夫」
驚く亜美に楓は言う。
亜美がにっこりと笑って首を横に振った。
「いえ。……そうですね。彼とは新人研修中の飲み会で、はじめて話をしたんです。その頃私、新人研修の課題がうまくできなくて悩んでて、その話を聞いてもらっていたんです」
「そうなんだ。で、この人はいい人だから恋人にぴったりだって考えたの?」
尋ねると、亜美はふふふと笑った。
「全然です。はじめはそんなこと考えもしませんでした。むしろ第一印象は最悪で。もっとしっかりしろとか、こんなことで諦めるのかとか、辛口コメントばかりでしたから」
その言葉に、楓は驚いて問いかけた。
「じゃあ、どうして好きになったの?」
第一印象は最悪なのに。
亜美が首を傾げた。
「うーん、自分でもよくわからないですけど。人を好きになるって頭じゃなくて、心で感じるものなんじゃないかな? 『まぁ頑張れよ。愚痴ならいつでも聞いてやるから』って彼に肩を叩かれた時、あれ?って思ったんです。それからは、なにをしてても彼のことばっかり考えるようになっちゃって」
「彼のことばかり考えるように……」
楓は彼女の言葉を反芻する。不思議なことに、そんなことあり得ない、とは思わなかった。
頭に浮かぶのはこの一週間の自分だった。買い物の日の夜に、枕を抱いて一生懸命打ち消そうとした彼に対するよくわからないあの気持ちは、結局今も楓の中に居座っている。
気を抜くとあの日の彼が頭に浮かび、気持ちがふわふわとするのを止めることができないでいる。
彼女は楓に雑談代わりにこうやって彼氏の話をすることがよくあった。
『楓さんって私が彼とのこと愚痴っても、あれこれうるさく言わないし、なにより口が固いからつい話しすぎちゃいます』
あれこれ意見を言わないのは、言うだけの経験がないからだが、とにかくいつもはふんふんと彼女の話を聞くだけだ。
自分はしないと決めている恋愛の話だが、ほかの人の話を聞くこと自体は嫌いではない。
でもこんな風に楓から、彼女に質問したりはしなかった。
興味がないというわけではなかったが、自分はしないと決めている以上、踏み込んだ質問をする必要がなかったのだ。
でも今は……どうしてかはわからないが、聞いてみたいと思ったのだ。
恋愛のはじまりが、どのようなものなのか、を……。
「あ、ごめん。言いたくなければ大丈夫」
驚く亜美に楓は言う。
亜美がにっこりと笑って首を横に振った。
「いえ。……そうですね。彼とは新人研修中の飲み会で、はじめて話をしたんです。その頃私、新人研修の課題がうまくできなくて悩んでて、その話を聞いてもらっていたんです」
「そうなんだ。で、この人はいい人だから恋人にぴったりだって考えたの?」
尋ねると、亜美はふふふと笑った。
「全然です。はじめはそんなこと考えもしませんでした。むしろ第一印象は最悪で。もっとしっかりしろとか、こんなことで諦めるのかとか、辛口コメントばかりでしたから」
その言葉に、楓は驚いて問いかけた。
「じゃあ、どうして好きになったの?」
第一印象は最悪なのに。
亜美が首を傾げた。
「うーん、自分でもよくわからないですけど。人を好きになるって頭じゃなくて、心で感じるものなんじゃないかな? 『まぁ頑張れよ。愚痴ならいつでも聞いてやるから』って彼に肩を叩かれた時、あれ?って思ったんです。それからは、なにをしてても彼のことばっかり考えるようになっちゃって」
「彼のことばかり考えるように……」
楓は彼女の言葉を反芻する。不思議なことに、そんなことあり得ない、とは思わなかった。
頭に浮かぶのはこの一週間の自分だった。買い物の日の夜に、枕を抱いて一生懸命打ち消そうとした彼に対するよくわからないあの気持ちは、結局今も楓の中に居座っている。
気を抜くとあの日の彼が頭に浮かび、気持ちがふわふわとするのを止めることができないでいる。