契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
資格試験の勉強はろくに進んでいなかった。
 
亜美が懐かしそうに目を細めた。

「なんと言っても、第一印象は最悪ですから。はじめは認めたくなくて考えないようにしなきゃって思ってたんですけどね。勝手に気持ちが暴走しちゃって、なんにも手につかないんだもん。もういてもたってもいられなくて、勢いで告白しちゃったんです」

「そうなんだ……」
 
楓は呟く。ここのところ不思議に思っていた自分自身の変化に答えが出たような気がするけれど、それ自体に衝撃を受けている。

いや本当は、もう少し前からそうじゃないかと感じてはいたけれど、認めたくなかったのだ。

認めたとしてその先に、いいことはなにもないから。
 
今だって引き返せるものならば、引き返したい。

「……でもさ。まだ全然相手のことを知らないのに。間違いだったってこともあるよね? 亜美ちゃんはたまたま本当に好きだってだけで」
 
そんなことを言ってみる。相手のことをよく知らないのに、好きになるなんてやっぱりどこか納得がいかない。

「よくよく知って、この人なら好きになっても大丈夫って思ってから好きになるものじゃないのかな?」
 
少なくとも恋愛に夢を見ていた頃の楓はそうやって慎重に相手のことを考えていた。

結局、そんな人は相手は現れなかったけれど。
 
亜美がにっこりと笑って首を横に振った。

「恋に落ちる時は一瞬ですよ、楓さん。しかも落ちるかどうかを自分で決めることはできないんです。気がついたらもう落ちてるんですから」
 
その言葉に、楓は目を見開いた。

「気がついたら……」

「そうです。っていうか、楓さんの方がよくわかるんじゃないですか? 副社長とBARで意気投合して、そのまま結婚までしたんだから。あー、でも今楓さんと話して彼と出会った時の気持ち、思い出しちゃったなー。やっぱりもうちょっと頑張ってみるかー」
 
亜美が無邪気にそう言って、オムライスを食べ始める。

「そ、そうよね。うん、言われてみればその通りかも……」
 
曖昧に言って楓も箸を進めるが、食欲は一気に失せていた。
 
結局その後も、亜美の言葉が頭をぐるぐる回って、鯖の味噌煮はほとんど残してしまった。亜美に体調が悪いのかと心配される始末だった。

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