契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
夜七時過ぎた三葉家のキッチンで、くつくつと煮えるカレー鍋をゆっくりとかき混ぜながら、楓は昼間亜美と話したことについてぐるぐると考えている。
 
楓の中で三葉和樹という存在が変わりはじめているのは間違いないと思う。

でもまだ恋に落ちているわけではないと、一生懸命自分自身に言い聞かせていた。
 
ただでさえ男性に慣れていないのに、見た目は最上級の相手と夫婦のように過ごしたという、ありえない状況に心が錯覚してしまっているだけだ。
 
だってどう考えても、彼の中身は楓が好きになるような相手ではない。
 
女性とは嫌というほど付き合ったと言いながら、女性を信じていないやっかいな男。
 
女性はからかわないと言いながら楓のことはからかう、失礼な人。
 
そもそも、好きにならないことを前提に結婚しているのに……。
 
とはいえ、これからも顔を合わせることはほとんどない。

きっとその間に、また冷静な自分に戻り、以前と同じ気持ちになるだろう。

とりあえずそう納得して、楓がコンロの火を止めた時。

「ただいま」

「ひゃっ‼︎」
 
突然声をかけられて、楓は悲鳴をあげてしまう。

振り返ると、スーツ姿の和樹が、キッチンの入り口に立っていた。
 
驚いた表情でやや不満げに口を開く。

「なんだ、こっちまでびっくりするじゃないか」

「す、すみません。でもいらっしゃると思わなくて……」
 
実際この時間に彼が帰宅するのは珍しいことだった。

「は、早いですね……」
 
そう言うと彼は頷いた。

「ああ、今日は"妻と食事をする日"なんだ」
 
そういえばそういう日があったと、楓は思い出す。

夫婦だということを秘書室にアピールするために、そういうフリをしている日のことだ。

「そ、そうですか……」
 
答えながら胸の鼓動が走り出すのを感じていた。
 
一日中働いたはずなのに、今日の彼も完璧だ。

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