敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
――まさか。
心臓がべつの意味で早鐘を打ちはじめたそのとき、ドアをノックして聖が先に入室する。
「聖、なにをしていたんだね」
中から年配の男性の声がしたが、七緒はそれどころではなかった。
(嘘でしょう……!)
チラッと覗いた部屋の中に祖母がいたのだ。
お見合い話をされたとき以上の混乱に襲われる。なにがなんだかわからない異常事態のおかげで、首から下は硬直して棒立ちになった。
「待たせてごめん。じつは彼女との結婚を考えているんだ。だから今回のお見合いは辞退させてもらえないかな」
聖に手を引っ張られた七緒は、変なステップを踏んで彼の隣に立った。
「七緒?」
テーブルの向こうで祖母の孝枝が目を真ん丸に見開いた。コアラのように優しげな顔は固まっている。