敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「恋人を演じるわけだから、お互いに下の名前で呼ぼう」
「はい」
共犯者である彼の横顔を見上げ、しっかり頷いた。
通路を突き進み、レストランを横目にさらに先へ行く。ごく自然に手を繋がれたため軽く鼓動が跳ねたが、恋人っぽく見せるための雰囲気づくりのひとつだと割りきった。
演技が試される決戦の場に向かう緊張が、鼓動のスピードを上げていく。
「ここ」
聖が不意に足を止めた。
「……え? ここ、ですか?」
とっさに周辺のドアを見回し、自分の今いる場所を確認する。
(おばあちゃんがいるのもこの部屋じゃなかった……?)
ドアには〝フリージア〟とプレートが掲げられている。記憶は曖昧だが、トイレに行くふりをしたときに見たプレートも同じだったような気が……。