敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
冗談めかして返したら額をツンと指先で弾かれた。
「ともかく七緒が先。ほら入ってこい」
「でも――」
「そんなに俺が気になるなら一緒に入ろうか」
七緒に顔を近づけ、いたずらっぽい表情でからかう。
聖なら本気でそうしかねない。
「お、お先に入らせていただきます」
狼狽えながらくるりと方向転換。背中に聖の笑い声を受けながらバスルームに急いで逃げ込んだ。
熱いシャワーを頭から浴びて並々とお湯がたまったバスタブに浸かると、冷えた体が急速にあたたまっていく。
先ほどから七緒の鼓動は早歩きを保ったまま。聖の放った『好きだ』の言葉が何度も蘇っては、その度に胸が切ないくらいに高鳴る。
かりそめの恋人のはずだった。恋心なんて生まれる予定はなかった。
時が経てばまた元の生活に戻るのだと考えていたのに、わずかな間に膨らんでいた想いが七緒の心のほとんどを占拠している。自覚した途端、その大きさに自分自身で驚くくらいに。