敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「それを言うならうちの七緒も同じですよ、利幸さん。一生結婚しないなんて言うものだから、おちおち死んではいられないわって」
「おばあちゃん、死ぬなんてやめて」
七緒の結婚に生死をかけた孝枝をすぐさま制す。
幼い頃に母親は交通事故で亡くなり、中学生のときに今度は父親が病気で他界。七緒は父方の祖母宅に身を寄せた。祖父は七緒が生まれるずっと前に亡くなったため、兄弟のいない七緒の家族は孝枝ひとりである。
「聖さんと七緒の結婚を見届けるまでは生き長らえないとね」
「孝枝さん、それを言うならひ孫の誕生までにしておいたらどうだ」
「それもそうね」
孝枝と利幸が笑い合い、その場がにわかに賑やかになる。
結婚ばかりかひ孫の誕生まで話が膨らむからソワソワしてかなわない。お見合いを回避するはずが、深みにはまったように感じるのは気のせいだろうか。
せっかくたくさんのスイーツを前にしているのに堪能している心の余裕がない。
それなのに聖は澄まし顔でチョコレートタルトを口に運んでいた。七緒の視線に気づいて笑い返す。まるでこの状況を楽しんでいるよう。
極上の笑顔からそそくさと目を逸らし、七緒はオレンジのムースに手を伸ばした。