敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
なにかを言おうとして口を開いて止まり、ひと呼吸置いてから尋ねてくる。
「うん、幸せだよ」
躊躇わずに言葉が出た。二カ月前の自分には考えられない変化だ。
「ならよかった。……じゃ行くわ」
「唯斗くん」
踵を返そうとした唯斗を呼び止める。
「仕事、頑張ってね」
「ああ。七緒も、早く仕事が見つかるといいな。それから……アイツと幸せに」
「ありがと」
今度こそ七緒に背を向けた唯斗が人混みに飲み込まれ、見えなくなっていく。付き合っていた頃はいつもはつらつとしていたのに、寂しげに見える後ろ姿が痛々しい。
裏切られてつらい想いをしたが、不思議と彼を憎む気にはなれない。結局七緒たちは恵麻に引っ掻き回されただけだった。彼女の気まぐれに振り回されたのだ。
どうにも収まらない鬱々とした想いが募っていく。