冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
廊下の明かりを消し、寝室へと足を踏み入れた。ベッドサイドの明かりだけで部屋の電気は消えている。ベッドに膨らみがあるけれど、それは微動だにしない。
本当に寝てる――?
急にしょんぼりしてしまいそうになりながらも、起こしてはいけないとそろりとベッドに入る。
「……わっ」
微動だにしていなかった九条がいきなり麻子の腕を引き寄せた。
「起きてたんですか?」
九条の身体の上から見下ろす形になる。裸眼の九条がその口元を僅かに緩め、麻子を見つめた。
「寝るわけないだろ? 今日は、君が疲れたと言ってもすぐには寝かせてあげられないな」
「え……あ、そ、そうです、か」
その目で見られるのはまだ慣れない。つい、目を泳がせてしまう。けれど、両頬を大きな手のひらで固定されて身動きが取れなくなった。
「麻子の、私にしか見せない顔が見たくてたまらなかったって、知らなかった?」
「そ、そんな風には、全然――んっ」
そのまま頬を引き寄せられて唇が重なる。重なり触れ合って啄まれる。
「……香水、香りが消えてしまったな」
「お風呂、入った、から……」
唇を啄みながら話をするから、それだけで身体が疼き始める。
「この香り、気に入った?」
「ん、は……はい」
「よかった。気に入らなかったのかと思ったから――」
九条の長い指が頬から後頭部へと移って、急に深いキスになった。
撫でるような唇が、荒っぽくこじ開けて熱く濡れた舌が入り込んで来る。口内を掻き回し絡めて吸い上げて。豹変ぶりに息が上がる。
「か、課長……っ」
息も絶え絶えになっていると、身体が反転した。ベッドに押し倒され、前髪のかかる切れ長の目が麻子を射抜く。
「一週間分の麻子を感じさせて」
「私も、」
夜になったら言える。
「私にしか見せない顔が見たい。私の恋人だって実感したい」
「……麻子」
きつく抱きしめ、優しく甘く名前を呼んで。「ごめんな」と囁いて、再びキスを落とした。
深まる夜の中、優しく甘く熱く、大事なものに触れるみたいに抱かれた。
夜だけは、何度も言わせてほしい。
「好き、です。あなたが、好き」
夜の暗闇の中で、いつも出せない感情を溢れさせる。