冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
旅行から戻れば現実が待っていた。麻子より先に休暇をとっていた九条は既に出勤している。
麻子は、残りの夏季休暇を使って、自分のアパートに戻ってみた。
約束の三週間はもう目の前だ。あれから結愛からは一切連絡はない。
まだアパートにいるのか、出て行ったのか――。
恐る恐る自分の部屋のアパートの鍵を開ける。まだ一ヶ月も経っていないのに、ここに住んでいた日々が遠い昔のように感じる。
そっと玄関のドアを開けると、物音しない以前のままの部屋がそこにあった。玄関先に靴はない。
とりあえずは、いない――?
部屋に上がると、誰から暮らしている様子は感じられなかった。結愛の私物も見当たらない。
働き口を探して、部屋を見つけたのか。それとも、祐介のところに戻ったのか。新しい男を見つけたのか。
何の連絡もないことがいい知らせなのか。それとも、嵐の前の静けさなのか――。
何年も暮らしてきたはずの部屋なのに、もうよそよそしく感じる。もう、九条のマンションが自分の家のようになってしまったのか。
三週間。そう約束した。なのに、もう少し一緒にいたいと思ってしまう。それが本心だと思い知る。二人で暮らす毎日がなくなることが寂しい。
『3週間と言わずにもっといてくれていい。部屋は焦って探すもんじゃない。条件のいい部屋が見つかるまでゆっくり探せばいい』
課長の言葉に甘えてもいいですか――?
手首を彩る腕時計に触れる。