冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
それから四年。麻子が所属する課に課長として着任した。
二度目に会った彼女は、学生の雰囲気が抜けきらない新入社員の頃とは違う、大人の女になっていた。
でも、そんなことより気になったのは麻子のキャリアだった。一言で言えば、可もなく不可もない。そんなところだった。海外赴任経験ありと言っても、語学研修。花形の部署にいるとは言え、特別なプロジェクトで実績を残しているわけでもない。
あんなことを言っておきながら、能力は大したことないのか――?
もっとガッツがあるタイプだと期待してがっかりしたが、そうではないということをすぐ知ることになった。
仕事をさせてみれば、彼女から上がって来るものは細部に渡って気が配られいるものだった。要領も得ているし無駄もない。こちらの意図をすぐに理解する頭の良さもある。能力が高いのはすぐにわかった。
そして、もうひとつ。自分と重ねていたはずの麻子が、全然違うタイプの人間だと言うこともわかった。
家族に恵まれず苦労して生きてきたのは同じはずで。それなのに麻子は、誰に対しても親切で心配りをする人間だった。自分のように他を寄せ付けない冷たさではなく、明るく優しい人柄。その姿に胸を突かれた。同じなんかではなかったのだ。
仕事に対して、真面目で誠実。それを周りに利用されている節があった。
『何でも麻子ちゃん』
なんて影で言われて、面倒でいて大して評価に結びつかない仕事ばかりを周囲から押し付けられている。それでわかった。彼女が特段評価されていなかったのはそのせいだと。
この課に課長として配属されたのには意味があった。副社長直属の社を挙げてのビッグプロジェクトのためだ。
メンバーを選定しプロジェクトを立ち上げる。そのリーダーとして副社長からの命を受けていた。
四月に配属になってすぐに課員の資質を調べた。課員全員にそれぞれ仕事を振り仕事ぶりを見る。
麻子には少し難しい案件を任せた。想像通り、いや、想像以上の成果を出してみせた。文句なくプロジェクトメンバーに選出される資格がある人材だ。
その時に思った。彼女を伸ばしてやりたい。一流の商社マンにさせたいと。
初めて出会った時に交わした言葉。あの時の麻子の思いを成就させてやりたいと思ったのだ。それだけの人材だった。