冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
「――この三年、どれだけ君に焦がれていたかわかるか?」
獰猛な目が射抜くように麻子を見つめる。
余裕のない手が性急に麻子を抱きしめ、寝室のベッドに横たえた。もう一分一秒待てないとでも言うように荒っぽくネクタイを引き抜き、ジャケットを脱いでいく。
「最後の夜、あんな風に俺を誘惑して君でいっぱいにして去っていくんだから、なんて残酷な女かと思ったよ」
「……っ、あぁ」
麻子のブラウスのボタンを素早く外す。いくつか外れたところで、その胸元に大きな手のひらがあっという間に滑り込んでいく。
「あれは君の仕返しだった? 君を手放した俺への罰?」
「ち、ちが……っん」
手のひらに気を取られていたら、九条の唇が首筋に激しく吸い付いた。
「それなら大成功だったよ。どれだけの夜を、君の残像で苦しんだか」
もう、目の前にいるのは余裕がある冷徹な上司じゃない。感情剥き出しの一人の男だった。
「君の香りも、この首も、耳も、肌も、唇も、全部、消えなかった。消えないのに触れられない。胸が引き裂かれるみたいだった。でも、何より一番やるせなかったのは――」
九条の顔が真正面に現れる。苦しげにしかめられた眼差しは心にある感情を映しているようだった。
「それが全部、自分のせいだってこと」
その苦しそうでたまらない瞳は泣いているようにも見えて、自分まで泣きたくなってしまう。込み上げるように九条の頬に手を伸ばしていた。
「自分だけじゃない、君を傷つけた。たくさん泣かせた。君の笑顔が浮かんだ後は、必ず君の涙がちらついた……ごめん、ごめんな」
「ううん。仕方なかった」
何度も頭を横に振る。
濡れた唇が麻子の唇に重なった。自分の全てを求められているような、激しいキスに意識が遠のきそうになる。
あとはもう、無我夢中でお互いを求め合った。
「好きだ――」
抱かれている間、何度も降ってきたその言葉。それはまるで、この三年間言えずにいた分を吐き出しているみたいだった。
そんな図々しいことを想像したのは、誰より自分がそうだったから。
もう、心置きなく言えるのだ。これからは思った時に思ったように。
その事実が、さらに幸福を連れてくる。