冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
「――麻子、大丈夫か?」
部屋に差し込んでくる太陽が瞼を刺激して、ゆっくりと目を開ける。そうしたら、目の前に裸眼の九条の顔があった。
「おはよう、ございます……」
聞こえる自分の声が酷く掠れている。
「昨日は久しぶりなのも忘れて、かなり無理をさせた」
「い、いえ、そんなことないです」
最後はもうどうやって眠りについたのかも思い出せない。何度も何度も九条の熱を受け止め、そして自分も欲した。
「嘘だ。……その声。声を出させ過ぎたせいだよな?」
どれだけ我を忘れて乱れたのだろう。部屋の明るさも相まって急に恥ずかしくなって来る。
「い、言わないでください」
肌触りのいい掛け布団で顔を覆おうとしたら、何も着ていない九条に抱き寄せられた。
「たまらなく可愛かった。麻子が可愛すぎて、バカになった」
「バカ……? あなたが?」
包まれた胸の中で、問い返す。
「でなきゃ、あんな獣にはならないだろ?」
「獣だなんて……激しくは、あったけど……ずっと、優しかったですよ」
それは本当だ。むしろ、激しさは求められる悦びになった。
「幸せで、死にそうでしたけど……」
九条の胸板に頬を押し付けてそう呟くと、ぎゅっとよりきつく抱きしめられた。
「だから。そういうところだ」
「え……えっ?」
下半身に何かを感じる。
「君のせいですぐにこうなる。自分が俺の性欲を刺激するんだってこと、自覚しておいた方が今後のためだな」
「そ、そんな」
自分の頭の上にあった九条の顔が下へと降りてくる。緩んだ前髪が目にかかって、気だるげな雰囲気さえセクシーで。その目に見つめられるだけでときめいて身体が疼く。
私だって、あなたに溺れまくっている――。
「俺の可愛い人」
いつも鋭い眼差しの人のとろけるような甘さは猛毒だ。今すぐ抱いてくれと自ら言ってしまいそうになるのを抑え込むために、全然違うことを口にした。
「……“俺“って、もう自然に私の前で使うようになった」
「ああ……」
「なんか、嬉しいです。壁がなくなったみたいで。プライベートのあなたを手に入れたみたい」
そう言って笑うと、九条の目が真剣なものになった。
「これまで話して来なかった俺の過去。恥ずかしくて惨めで無かったことにしたかった過去だ。聞いてくれるか……?」
三年前、二人でいる時にもほとんど話すことのなかった九条の過去。
それを今、話してくれようとしている――。
「はい」
麻子を胸に抱きながら、九条が話し始めた。