冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
* * *
「人がすごいですね」
二人で初めて迎える新年。九条と一緒に初詣に来ていた。
深夜の空気の冷たさが頬をさす。思わず両手を擦り合わせていたら、麻子のその手を握りしめた。
「はぐれるなよ」
二人で手を繋いで歩く。そんなことも、ためらうことなくできるようになった。
大行列を待つこと一時間。ようやくお参りの順番が来た。鐘を鳴らし、手を合わせる。
「長いこと祈っていたな。何をお願いしていたんだ?」
「お願いはしてません。お礼を言ってたの」
「礼?」
隣に立つ背の高い九条を見上げる。
「はい。二人で来られたこと、二人でいられることを感謝しました。だってもう、他に願うことなんてないです」
今ある現実が、自分にとって奇跡だと思えるほどに幸せだ。
最初は憧れて、そして尊敬し、心から好きになった。
でも、ずっと、ただただ遠い人だった。
近づいても近づいても、手に入れられない。
そう思っていた。
でも、こうして手を繋いで隣にいる。
「麻子」
人混みの中で、抱きしめられた。
躊躇いなくそんなことをする九条に、恥ずかしさがどこかに飛んで行く。
「なら、これから毎年、二人でいられることを感謝しに来よう」
「はい」
今年も、来年も、その先も。
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