冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
祐介が、あんなにも最低な人だったことに再び傷ついていた。
初めてキスしたのも、初めて身体を重ねたのも、祐介だった。過去を思うと虚しさと哀しみを覚える。
あの頃は、人を好きになるということがどういうことか知らなかったから。祐介が好きなのだと思っていた。
全部、そんな自分への報いなのか。
土曜日も、日曜日になっても、スマホが鳴り続けた。
【麻子のことが忘れられない】
【やっぱり俺には麻子しかいない】
【もう一度、会いたい。俺の気持ち分かってほしい】
しつこく繰り返されるメッセージに祐介をブロックした。そうしたら、今度は電話がかかって来る。
付き合っている人がいると言ったのに何で?
どうしてこんなに急に執着するのか。耐えられなくなって、スマホの電源を切って畳に投げつけた。
“付き合っている人がいる“
そう祐介に告げる時、ほんの一瞬、躊躇った。付き合っている人がいると言うのに自信がないのを見抜いて。それで、こんなことをするのか。
課長、会いたいです――。
甘い言葉なんてなくても、優しく抱きしめてくれなくても。たまらなく会いたい。
同じこの時間、課長の脳裏に私が過ぎることはないだろう――。
『会いたい』とも言えない。決して、甘く柔らかいもので包んでくれる恋ではない。それでもいい。
――ピンポン。ピンポン。
夜も深まって来た21時過ぎ。呼び鈴が突然鳴った。
誰――?
心当たりはない。息を潜めるようにじっとしていると、もう一度部屋に呼び鈴の音が響いた。
「麻子、俺だよ。電話が繋がらないから、心配になって来てみた。いるんだろ? 開けてくれ」
玄関ドア脇の窓から部屋の明かりが漏れているせいで、在宅していることがバレてしまう。
祐介の声とドアをノックする音に、床に座り込んだ。