冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜

 昼間はビジネスマンで溢れている植栽で囲まれた広場に来た。さすがにこの時間には誰もいない。

「今更私に何の話があるの? 要件を手短に言って」

なるべく祐介の顔を見たくなくて頑なに背を向けた。

「……結愛とのことは、許してほしい」

え……?

何を言っているのかわからない。

「俺が本当にバカだった。どうして麻子と別れるようなことをしてしまったのか、ここずっと後悔しかなくて。どうにかなりそうなんだ」
「……何言ってるの? あんなにも悪びれもなく別れたくせに、よくそんなこと言えるね」

唖然として祐介の方に振り向いてしまう。祐介の別れ際の捨て台詞の全てを覚えている。

「結愛は麻子と全然違う。結愛と一緒にいて気づいたんだ。麻子がどれだけいい女だったかって。結愛は、自分では何もできないくせにわがままばかりで、もう付き合いきれない。結愛のことは気の迷いだった」

呆気に取られて言葉も出ない。

「俺、寂しかったんだ。麻子にもっと俺のこと見てほしくて。それで、俺を誘惑してきた結愛につい――」
「ふざけないで。そんな話、もうどうだっていいから。今は結愛と暮らしてるんだよね? ちゃんと責任をとって。もうこんなことしないで!」
「麻子!」

立ち去ろうとした腕を強く引っ張られる。

「結愛には出ていってもらう。だから、俺とよりを戻して」
「私、好きな人がいる。その人と付き合ってるの。だからもうやめて」
「え……?」

祐介の手の力が緩む。その隙に思い切り手を振り払い、走り出した。

< 85 / 252 >

この作品をシェア

pagetop