あざと女子の恋の歌はあざとくない。


緋色があたしを見て、ふわりと笑った。


「……っ」


何、今の。
ずるすぎない?

ふわりと優しく微笑みかけるなんて。
胸の奥がきゅうっと締め付けられる。

今のあたしの気持ちをたとえるなら、この歌だ。

「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに」

しのぶもぢずりの布のように、誰かのために心を乱すような私ではないのに、あなたの事を想うと私の心は乱れはじめる。


……本当に、こんなに心を乱されるのは緋色だけだよ。

なのに、全然嫌じゃない。
むしろ心地良ささえ感じる。

なのに、何故だか泣きたいような気持ちになるの……。

やっぱりあたしは、緋色が好き――……

もうどうしようもないくらい、泣きたいくらいに大好き。


* * *


何となく屋台を一周してから、咲玖ちゃんたちに連絡して席を取ってくれた場所に行ってみたら、誰もいなかった。

レジャーシートが飛ばないように四隅を大きな石で押さえられていて、目印なのか気の抜けたマヌケな顔をしたピンク色のウーパールーパーのぬいぐるみがポツンと置かれている。
そのウーパールーパーは何やら手紙を持っていた。

「がんばってね♡」

更に狙ったようなタイミングで、LIMEのメッセージもくる。


「私たちは別の場所で見まーす」
「頑張れ」


咲玖ちゃんと桃のん……せめてもう少し一緒にいてくれても良くない!?


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