わたしのかわいいだんなさま
 気がつけば一面の霧の中で波間にたゆとう小舟に乗っている。ぼおっとした頭で周りを見回すと、アルヴィンの目の前にはメリズローサが目を閉じたままで横たわっていたのだ。

 どうしてここに? そう思うよりも早く、アルヴィンはメリズローサへと寄り手を添えた。
 メリズローサ?どうしたメリズローサ!そう声を上げるが真白の霧に吸い込まれ音にならない。だったらと、自分の唇をメリズローサのそれへと近づける。
 どうしてそうしたのかはわからないが、おそらくはいつものようにキスをすればその後で、彼女がにっこりと自分へ笑いかけてくれると、アルヴィンはそう考えたのだろう。

 ちゅっと、軽いリップ音を立ててキスをしたが、それでもメリズローサは身じろぎもしない。ただ、白い瞼を彩る長い睫毛だけが揺れていた。
 もう一度、と今度はもう少し長く唇を押し当てれば、むにゅんと柔らかいだけでなくしっとりと熱を持ったそれがあまりにも気持ちよく思ってしまう。

 すると自分のお腹の下あたりに今までに感じたことのない熱と重みを覚える。
 それがじわりじわりとアルヴィンの中で膨れ上がってくるのと同時にゆっくりとメリズローサの瞳が持ち上がってきた。その美しい琥珀の瞳が開ききり真正面で目が合うと、アルヴィンの熱が一気に吹き上がる。

 そうしてアルヴィン11歳、初めての夜の暴発事故と相成ったのであった。

 それからというもの、たびたびアルヴィンの夢の中にはメリズローサが出現するようになる。
 シチュエーションはまちまちだが、必ず最後にはキスをするのだ。そしてお察しの出来事が起こる。

 王太子の嗜みとして性教育の授業は当然受けているアルヴィンだが、まさか自分がこんなに無節操だとは思わなかった。
 ビーバリオではあるまいし夜な夜な下着を濡らす真似などするわけがないと。しかも、メリズローサとのキスで――

 そうアルヴィンにすれば今一番の問題はそこである。
 とりあえず最初の暴発から次の訪問日、そして前回までの二回はなんとか無事だった。メリズローサと目を合わせないようにして急いでキスをしたからなんとか持ったのだと思う。

 しかしメリズローサとキスをする夢だけで暴発事故が起こるのだ。それももう今ではほぼ毎日。
 まさかとは思うが、もし万が一メリズローサと過ごす予定の日に、彼女とキスをしたその時、暴発事故が起こってしまったら……?

 ぞぉおおっと背中に悪寒が走る。しかもカリンが百人集まって騒ぎながらダッシュしているかのような感覚だ。

 もしもカリンにバレたら軽く死ねる自信がある。いや、メリズローサにも勿論バレたくはない。こんなことで毎夜下着を濡らしているだなんて知られたらきっと白い目で見られるに決まっている。
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