狂愛メランコリー
理人の表情が強張った。
驚いたように瞠目し、首を横に振る。
「嘘だ、ありえない……。菜乃の“一番”は僕じゃなきゃ……」
縋るように伸ばされた彼の手から、私は咄嗟に後ずさった。
逃れるように。拒絶するように。
────いつから、私たちの歯車は狂い始めていたのだろう。
ただの幼なじみと言うには少し近過ぎて、どんどん依存するようになって、異様な関係性になっていって。
いつからかは分からないけれど、この瞬間が分岐点になったのは確かだ。
歪み始めていた歯車はこのとき、音を立てて壊れた。
「……っ」
瞠目してしばらく黙り込んでいた理人が、ややあって一歩踏み込む。
ガッ、と両手で勢いよく私の首を掴んだ。
ぎりぎりと締め付けられ、息が出来なくなっていく。
彼の色と温度を失った顔は、何の表情も浮かべていなかった。
でも、その瞳には深い悲しみの色が広がっている。
嘆くようで、責めるようで、打ちひしがれるような、複雑な暗色が混ざり合っていた。
「う、ぅ……」
痛い。苦しい。苦しくてたまらない。
でも、理人もすごく苦しそうだった。
(何で……)
戸惑いと混乱に明け暮れながらも、私は死に際に強く願ったのだ。
もう一度、やり直したい────と。
*
「!」
アラームが鳴り響いていた。
はっと目を覚まし、起き上がる。
「う……」
何だかお腹の底が気持ち悪い。
もちろん気のせいなのだけれど……“前回”ココアに仕込まれた毒を飲んだせいだ。
心臓が突き刺すように痛んだのも気のせい。
記憶が見せる幻。
「…………」
重いため息をつき、私は頭を抱えた。
今の夢は────。
(ループが始まったきっかけ……?)
最初の記憶だ、と直感的に思った。
初めて理人に殺された日の記憶。
「……じゃあ、やっぱり────」
“やり直したい”と、私が願ったことでループが始まった。
これは私が作り出したループだったんだ。
理人に殺される結末を覆すため。あらゆる選択をやり直すため。
迫り来る“死”からの逃避。
そう思い至ると同時に、あることに気が付いてしまった。
“昨日”の憶測は正しい。
私に残された選択肢は2つだ。
理人を殺してループを終わらせるか、自分が死を受け入れるか。