狂愛メランコリー

 理人がいないと、何も出来ない。

 自分一人では、行動を起こすことも何かを判断することもままならない。

 つい俯いてしまうと、向坂くんが口を開く。

「お前さ、友だちいねぇだろ」

 からかうような言い方だったが、馬鹿にされたわけではなさそうだ。

 またしてもショックを受けたものの、事実であるため何も言い返せない。

「理人がいるし……」

「あんな胡散くさいやつが友だちね」

 思わぬ言い草だった。

 私を揶揄(やゆ)するに留まらず、理人まで貶める必要がどこにあるのだろう。

 む、と眉根に力が込もる。

「何でそんなこと言うの……?」

「別に思ったこと言っただけだけど。逆にそんだけ一緒にいて、何もおかしいと思わねぇの?」

 彼の黒々とした双眸が真っ直ぐに私を捉えても、もう“怖い”だなんて感情は湧いてこなかった。

 言っている意味はよく分からないが、(そし)られているのは分かる。

「つか、お前らどっちも異常。共依存っつーか……。三澄にマインドコントロールでもされてんじゃね?」

 ずん、と心に鉛を落とされたようだった。

 感情が凪ぎ、一気にささくれ立つ。
 呼吸が詰まった。

 開いた唇の隙間から、勝手に言葉がこぼれる。

「……最低」

 自分でも驚くほど冷たい声色になった。

 それくらい腹が立っていた。

「何も知らないのに、勝手なこと言わないで」

 まだ中身が半分以上残っている弁当箱を片付け、ランチバッグを手に立ち上がる。

 向坂くんに背を向けると、一瞥もくれないまま階段を駆け下りた。



 ……もやもやする。

 初対面の彼に、どうしてあそこまで言われなければならないのだろう。

 とことん失礼なものだった。相手に対する最低限の礼儀すら欠いている。

(私や理人のことなんて、何も知らないくせに……)

 それでも、何よりも自分が腹立たしい。

 まともに反論することも出来ないなんて、情けなくて悔しい。

「菜乃!」
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