狂愛メランコリー
きっと、記憶はあるんだろうな。
私が覚えている範囲だけでも、同じ「4月28日」は一度たりともなかったから。
意図と記憶を持って動いているのは間違いない。
理人が教室を出ていくのを見送ると、深く重たいため息をついた。
(向坂くん……)
正直、一番気がかりなのは彼のことだ。
どうして態度が急変してしまったのだろう。
もし、私が何かをしてしまったのなら、今すぐにでも謝りたい。
だけど、無理だ。
『……別に、いいんじゃね』
頭の中に冷たい声が響く。
『前なんて俺、知らねぇし』
完全にもう、拒絶されてしまった。
理由が分からないことが辛かった。だって、どうしようもない。
(これから、どうしたらいいんだろう)
向坂くんという唯一の味方を失った今、私はひとりぼっちになった。
もともとそうだったはずなのに、とてつもなく心細く感じる。
私に残ったのは、理人との虚構の日々だけ。
彼に殺されるまでの秒読みは、既に始まっている。
「…………」
────こんな世界なら、いらない。
ループに閉じ込められてから、初めて諦めたくなった。
向坂くんという支えを失った上、理人の顔色を窺いながら望まない関係を受け入れなくちゃならないのかな。
もし、それで生き延びてループから抜け出せたとしても、その先は辛く苦しいだけだ。
(そっか……)
今、初めて自覚した。
私はただ死にたくないだけじゃなかった。
これは、理人に殺されないためのやり直し────確かにそれはそうなのだけれど、それだけじゃない。
“変えたい”と強く思った。
残酷な結末と、それを取り巻く私たちの関係性。
決して交わらない理人の想いと私の想いを、押し殺さなくても辿り着けるハッピーエンドを願っている。
(やっぱり、諦められない)
これまでで一番辛い3日間になったとしても。
……うまくやらなきゃ。今回こそは。
記憶のこと。理人の想い。
今まで知らなかったことを知っているのだから、取れる選択肢の幅も広がったはずだ。
図らずも蔑ろにしていた理人の気持ちに、まずは真剣に向き合ってみよう。